ジェノミライプロジェクト概要

ジェノミライプロジェクトは、帝立ジェノメトリクス同調調停院地文)と帝立天文学量子波動学研究所天文)が共同で発足させた、
箱舟計画に代わる画期的な惑星救済手段を研究する機関」である。
ジェノミライは、天文地文がまだ分裂する前、今から約20年前に発足された。
設立当初のメンバーは十数名。その中でも中心的人物であったのが、以下の2名である。

  • ウンドゥ・クインクウェイム
  • クラケット・パルミウム

ジェノミライの発端は、ウンドゥによる地下施設(ロストテクノロジー)の発掘によるものである。
この頃既に、天文地文両者共に、箱舟計画を挫折しかけていた。そんな時だから、ダメ元でこのロステクに賭けてみたわけだ。
ウンドゥはこの後、クラケットという天文科学者のスカウトを申請する。

クラケットはG2管を発明した「時の人」であったが(後述)、彼自身の人柄などは褒められたものではなく、周囲からは煙たがられていた。
その為研究実績の割に評価も報酬も低かった。
売れない研究者に子供が一人。母親は他界。結構貧乏な生活だった。
クラケットは上の命令でG2管の開発をしていたが、本人が本当にやりたかったのは真空管の研究などではなかった。
本当に取り組みたい研究は、彼が自主的に、定期的に提出している論文を見ればすぐに分かる。
その論文題目は「精神波の干渉による多元世界間の移動について」。
ウンドゥはその研究に目を付け、ジェノミライに来ないかとヘッドハンティングをしたのである。
当時G2管の研究は、輝かしい時期は通り過ぎていて、しかも政治的圧力により暗礁に乗り上げていた(後述)。
元々こういう面倒くさい事が嫌いなクラケットは、もうG2管に対する熱意は完全に無くなっていた。
そんな中でウンドゥのスカウト。それも本当に自分がやりたい分野の研究である。彼にとって、こんな素晴らしい話は無かった。

ウンドゥ自身は身元不詳の研究者である。同じ地文、ジェノミライの同僚でも、ウンドゥの素性を知る者はいない。
ただ、彼はジェノムの扱いは超一流であり、ジェノムと人間の交流、そしてジェノメトリクスを科学的に証明した第一人者である。
しかし彼は、自分の名前を表に出すことは一切許可せず、普通の科学者が名声を売りたいと思っている中で、彼だけは誰にも名前を知られないように研究をしていた。

その後、ジェノミライに二人の若手研究者が参入する。

  • ネプツール・プランク
  • グレイコフ・リアノイト

グレイコフは調停院入院後、このプロジェクトに配属され、
ネプツールは天文に入所後、このプロジェクトに配属された。二人は同期だった。
そして二人とも、ウンドゥの目に留まりスカウトされた。

この4名が、世界の命運を握ることになる「ジェノミライ」の主要メンバーとなる。

ジェノミライ以前の関連史など

まずは、ジェノミライが発足する前までの、天文地文の研究の歩みについて。

ジェノムと巨大装置との融合手法として研究されたG2管

箱舟計画にとって、最も重要視された研究開発が「G2管」である。G2管とは、後に「シェルノトロン」と呼ばれるものの前身である。

ジェノムはそれ自身が持つ力が力の全てだから、それが最大の枷(アッパー)になる。
もしジェノムが、外から更に大きな力を得ることが出来るのならば、もっと大きな事が出来る。
この構想を元に研究開発されたのが「G2管」である。
G2管は、当時の皇帝を介して最高位のジェノム「コーザル」から啓示(ヒント)を受けて研究が進められ、実際に発明したのはクラケット。
G2管ジェノムとメカを繋げる仕組みは、ジェノム同士の詩魔法増幅手法である「チェイン」を利用したものである。
G2管の裏側には巨大なシステム(後にクラス・ドライブと呼ばれるライブラリ)があり、ジェノムG2管にチェインすることでその力を使うことが出来る。

このG2管の開発は、箱舟計画における最も重要な研究として位置づけられた。
なぜなら超長期的な箱舟の運行計画に際し、ジェノムの力とこのG2管があれば、現実的な制御が可能になるためである。
箱舟のような巨大施設を滞りなく、また予期せぬ事態に瞬時柔軟に対応させるには、人間では無理である。
またG2管を使いジェノムに制御させることで、更なる付加価値も望める。
例えば理屈上では、ジェノムの「脳内の想いを具現化する力」を超拡大することで、箱舟を有機的な惑星のように活動させることも可能だ。
もちろんそれが可能なジェノムは限られている。当時、皇帝ジェノムと言われ、特殊な声帯を受け継ぐ皇帝のみが扱えるジェノム「コーザル」のみである。

とにかく、クラケットが主体となって完成させたこのG2管は、天文は当然、その母体である調停院からも大絶賛を受ける。
クラケットはこのラシェーラにおいて、更に「時の人」となったのだ。

シェルノトロンの黎明と混沌の始まり

ここまでは良かった。だがその後、クラケットの飽くなき探求心は、行きすぎた研究へと突き進む。
クラケットはひらめいてしまったのである。
G2管ジェノム同士の「チェイン」を擬似的に再現するもの。だがジェノム同士の「チェイン」も、人間との「同調」も、ハードウェア的には同一の器官で行われる。
だからこれを応用すれば、人間が直接G2管にアクセスできるようになるのではないだろうか、と。
これはクラケットの単純な興味本位の研究でしかなかった。だが、この研究がその後のラシェーラ文化にパラダイムシフトを起こすほどの事態を引き起こす。

G2管は少しの改造で、人間との同調を行うことが出来た。だが当然、ジェノムの本体に当たるものがG2管側に無いため、単純に繋がっただけだ。
その後クラケットは「意志はなくても単純動作をする回路」をG2管の後ろ側に構築することで、ジェノムのように柔軟ではないが、単一の効果を発揮する装置「G2-DH管」を作った。
要するに、人間はジェノムを使うことなく、巨大なシステムを「思うだけで」制御する術を手に入れたのだ。
このまま文明が進化し、より柔軟なコントローラを開発出来れば、ジェノムが必要なくなるのである。

生粋の科学者であったクラケットは、ただ純粋にこの研究に酔いしれ、世紀の大発明と考えた。
それは確かにその通りだった。だが、それと同時にこの研究は、この時期のラシェーラの「モラル」に完全に抵触していた。
地球文明でいうところの「科学と宗教的タブーとの対立」…例えばクローン人間は理論的には可能だが倫理的には不可、といった事に近い事が起こった。
調停院がその研究を危険視し、停止させたのだ(もちろんその裏側では、コーザルが糸を引いていた)。

この事についてクラケットは、一気にG2-DH管に対する熱が冷めてしまった。
元々「本当にやりたいこと」から少々ずれるこの研究は、ちょっと障害が発生すれば冷めても不思議は無いものであった。
クラケットは天文の後輩にこの研究を受け継がせて、自分は窓際に引退し、自分の本当にやりたいこと、すなわち精神波と次元論の理論完成にいそしんでいた。
そんな中、タイムリーなことに、ウンドゥからヘッドハンティングを受けたのである。

ジェノミライ・プロジェクトⅠ

超法規的な研究所の発足

ジェノミライは、天文地文の庇護の元、今まで禁止されていた様々なことを許可した研究プロジェクトとして発足した。
ジェノミライの研究所は地文の更に下、地中深くに作られ、ジェノミライ関係者とその家族、場合によっては親族全て、その地下に住むことになる。
(後に更に厳しくなり、中心研究者であるウンドゥとクラケットは全家族を剥奪される。最もウンドゥには家族はいなかったが)
その代わり、ほぼ何でもやってみたいことはやって良かった。このような研究所を作るくらい、既に天文地文箱舟計画自体が暗礁に乗り上げていたのである。

さて、ジェノミライ研究所がなぜこれほどまでに特殊な機関なのか。
それは、取り扱う研究と調査が、この世界の常識を根底から覆すものだらけだからである。
ジェノミライの目的は、失われた太古の技術を解明していくことにあった。
クラケットがスカウトされた当時、既にさわり程度に解析は進んでおり、その結果、このロストテクノロジーが瞬間的な惑星間航行術であることが分かっていた。
そして、ラシェーラ人がこの方法で、この惑星に移住してきたという真実を知ることとなった。
だが、この事実は大変衝撃的なので、ごく一部のジェノミライ関係者以外には極秘となった。
このロステクが箱舟計画に代替する画期的な方法になるか否かは、実行方法の解明が可能か否かにかかっていたのである。

ジェノミライが解明しなければならないロステクは「次元間航行」。
すなわち、物理的に宇宙船で飛んでいくのではなく、空間と空間をくっつけて、一瞬にして別の場所へ行く方法である。
その為に、地下に巨大な施設を創りあげる。
それは、地下深く、遙か1000mの深度に、次元をねじ曲げるための実験施設を作る(今で言う粒子加速器のようなもの)。
そこで様々な実験を、人知れず行っていた。

研究過程

普通の人達が考えると、空間をねじ曲げるもの…すなわち機械などを作り出し、その機械によってワープさせる、という形を想像するだろう。
だが、過去の文明は違った。もちろん、この世界に「詩魔法」というものが存在する事を前提としても、普通の人は詩魔法でワープしようとか考えない。
彼らの考えはこうだ。

「この世界全体を手のひらで転がせる人間を召喚し、その人間に詩魔法を謳ってもらう」

途方もない計画のように思うが、過去の人々は、これが一番の近道であると踏んだのだろう。
まず実証実験として、この世界にいる普通の謳い手に謳ってもらい、その詩によって、ごく近くの空間同士をくっつけるという実験が行われた。
そして段々とその規模を上げていった。
この時、クラケットが天文時代に発明したG2-DH管(現在の「シェルノサージュ管」の前身)が大変役に立った。
ジェノム+人間の力では、ちょっと距離を遠くすると、すぐに不可能になってしまったからだ。
ジェノミライは天文の研究していたTzWを用い、従来のジェノムでは到底出し得ない力をG2-DH管との同調で可能にした。
そして、少なくともこのラシェーラの圏内であれば、移動可能という所まで来たのである。

だが、そこから先が難しかった。「先」というのは、3次元空間の距離ではない。次元の距離である。
4,5,6次元といった、上次元軸における移動は、既にTzWですらそれに見合う力を得ることは出来なかった。
そして古代の文明では、ショッキングな方法でそれを為し得ていたのである。
それは、「TzWの力による詩でこの惑星の物質を量子化し、その量子化したエネルギーを使って時空間移動の詩を謳う」というものである。
簡単に言えば、1つめの詩で物質を超質量まで潰し、原子を完全にクオークレベルまで均一にする(ブラックホールと同じ)。
そしてそれはもはやエネルギーであるので、そのエネルギーを使って、次元間移動を実現する詩を謳うのである。

その後の解明で、この惑星を覆っている幾重にも重なるリングは、「惑星を潰すためのもの」であることが分かった。
しかし、そのリングを実行して実験するわけにはいかないので、同様のミニ版を作り、地下で実験を続けた。
移動の為のエネルギーを得るのに必要な物質量は、10cm程度のものを4次元移動させるのに直径10mの物質塊が、7次元移動で1000mの物質塊が必要だった。
ジェノミライは4次元から順に、移動実験を進めていった。
エネルギーには、地下数キロの地殻がそのまま使われた。その為、地面はマンガのチーズのように穴だらけになっていった。

天文地文の分裂と口封じの強化

最初はさほど関心の無かった天文地文でも、ここまで来ると大騒ぎになる。
この現代の常識を遙かに超えた実験が、着実に解明し、実証試験が成功してきているのである。
この事に関して、地文側は危機感を覚えた。特にG2-DH管について、ジェノムを人工的に創り出す技術であるとみなした地文は、この研究の中断を命令したのである。
それは、ジェノムという生命の冒涜であり、人間が神聖なるジェノムを真似て、愚かな偶像を作っている、というのである。
だが逆に天文がこれに猛反発。未来を変える事になる研究が成功の道を歩んでいるのに、なぜそれを古典的しきたりによって止めるのか、と。
そして天文地文はこの意見について平行線となり、遂に決裂する。
この時点で、天文箱舟計画から撤退する。
だがジェノミライ研究所は両者の合意がなければ、その事業の左右を決定する事が出来なかったため、「事後処理」としてその後もグダグダと話し合いが続いていった。

そんな中でも少しずつ、小さいことから協定が結ばれていった。
その中で決定されたことの中に、この研究所の存在を徹底的に機密にする、というものがあった。
その決議によって、その計算と理論、実験結果が絶対に外に流出しないよう、ウンドゥとクラケットの2名は完全隔離された。
特にクラケットに関しては、唯一の肉親である娘、ウラシルとの永遠の別れを強く促される。
もしくは、全ての記憶を失い、普通の人生に戻るかどちらか、というのである。
クラケットはほぼ即答でウラシルとの別れを選択した。もちろん、ウラシルが完璧な生活保障を受けられると聞いたから、である。
こうして、この地下で行われている実験は、誰の耳にも触れることはなくなった。
地上から見れば、巨大なファンが地文の最下層にあるだけ。
このファンは地下の穴が陥没しないように、常に地下の空気圧を3.6気圧にするものだが、地上ではその理由が分からないため、様々な都市伝説が生まれた。

結局ジェノミライ研究所についての決着が着き、閉鎖となるのは、発足から10年が経過した後のこと。
研究所での大惨事「ジェノミライ・パンデミック」が発生して蹴りを付けなければならなくなってからである。

天文による端末「G2トロン」の発表

地文と分かれた天文が何をしていたかというと、前にクラケットが天文で開発していた「G2-DH管」の研究であった。
そもそも天文地文がケンカした一番の理由は、この「G2-DH管」である。地文はこれを「生命の偶像」と言い、天文は「輝ける未来の象徴」と言った。
天文地文と袂を分かつ理由は、このG2-DH管による、独自の「人工ジェノム」を創り出す為であった。
天文は分離から1年後、商用端末として「G2トロン」を発表した。これは帝都民から驚きの眼差しで受けとめられた。

クラケットはジェノミライ研究所でこの状況を見ていた。
そして彼は激怒していた。
クラケットにしてみれば、G2-DH管+プログラムなどといった半端なものを公に販売するなど、あり得ないことだったからだ。
この怒りは、後にシェルノサージュ管を生み出すことになるが、その課程で大きな代償も生むことになる。

太古のシーカーの召喚実験

天文がG2トロンを発表してから1年後、ジェノミライ研究所の研究は大詰めを迎える。
ジェノミライのPHASE1計画の最後、「この世界を手のひらで転がせる人の召喚」である。
これが誰かと言えば、この世界の外にいる生命のことである。この世界の外、といっても様々なレベルがある。
だが、ここで必要なのは外宇宙の存在。すなわち7次元の存在であった。

本来ならばその生命を呼び出すためには、7次元の穴を開けなければならないのだが、ウンドゥは1つの仮説を下にそれを回避した。
それは、数千年前に母星からこの惑星に移り住んできたときに謳った詩姫の精神が、まだこの世界に存在するはず、というものであった。
詩姫の魂は、7次元先の世界と繋がっており、更にこの世界の波動(H波)に変換されている。
変換された波動は、あたかもこの世界に自然に存在する波動と同様の振る舞いをするが、実際は全く無縁の存在。
この世界のH波によってその波動が削られることもなく、変化することもなく、そして今でも7次元先と繋がっている為に、そのままの状態で硬直しているというのだ。

それが本当なら、ボディを用意すればまたその娘の魂を封入する事が出来る。
そしてその試験において、理論通り、外宇宙の「誰か」のSHWが召喚され、そして用意されたボディとリンクしていった。
PHASE1は一見、成功したかに見えた。

シェルノサージュ管によるコンタクト

ボディは少女の形をしたものが使われた。
その少女のボディに命が吹き込まれた。
7次元先から来た彼女は「ネロ」と呼ばれるようになった。

ネロは虚ろに目を明け、ぼーっと周りを見回した。
皆、成功に胸を躍らせていた。
主要メンバーであるウンドゥ、クラケットは、万一の事態を想定して、遠いところからカメラ越しにこの様子を見ていた。
ネプツールとグレイコフは、この最重要機密実験には参加できなかった。
そして、ネロを移送したり、現場で機器を制御したりする役割は、帝国機密情報局「PLASMA」の隊員が行っていた。

だが1つの問題が発覚した。
ネロはずっと、ぼーっとしているだけで、感情を表に出すこともなく、喋ることもなかった。
それが何日も続いたのだ。
このままでは、連れてきたはいいが、詩を謳わせることもできない。
そこで、今彼女の中で何が起こっているのかを究明する為に、心の中に入るものを作ることになった。
それは、G2-DH管の応用で作られた。

元々のG2管は、ジェノムと人間の意志疎通を潤滑にする…すなわち、回線の強化(波導増幅と帯域幅の拡張)である。
ならばそれは、彼女をジェノムとして見立てれば、同様の理論で可能な筈であった。
だが実際は、理論通りには物事は運ばず、ほぼ一から回路を設計し直すこととなった。
そして1つの、ネロとのコンタクト専用の管が完成した。
クラケットはそれを「シェルノサージュ(=少女の世界)管」と呼んだ。

シェルノサージュ管によって、彼女とのコンタクトは出来たが、やはりそこからの情報は得られなかった。
なぜなら、やはり心の中でも彼女は「話さなかった」からである。
だが、別の解決策は見えてきた。
彼女はシェルノサージュ管を介することで、ほぼジェノムと同じ機能を有するようになったのである。
会話は交わさなくとも、同調した状態で想いを募れば、それをネロは力に変えてくれた。

本来は、ネロが「謳い手」であり、ジェノムもしくはG2-DH管が力を与える、という計画でいたわけだが、
それが、ネロが「ジェノム」であり、謳い手は誰でも良いかもしれないのである。

だが、これもまた上手くいかない。
大した出力は出せなかったのである。
ネロが同調相手に殆ど心を開かないため、通常以上のパワーを紡ぎ出すことは難しい。
当時発売されていたG2トロンよりは遙かに上だが、この研究用にカスタマイズしたG2-SH管に比べたらゴミのようなものだった。
これでは、仮に彼女がこの世界を手のひらで転がすように自由にコントロールできたとしても、詩によってそれを具現化する事は出来ない。

そこで次に考えたのが、「“ネロの遺伝子を利用した生命”との同調によって、通常の(あかの他人による)同調より警戒心を和らげる」方法であった。
要するに、ネロと同調するためのネロダッシュを作る、というわけである。

ドゥドゥ・ノエチウム(カノン)

その為に専用の人間を「作る」事になった。
管はクラケットの専門だが、遺伝子操作となればウンドゥのオハコである。
こちらはウンドゥが取り仕切る形で研究を行うこととなった。

一から人間を培養するのは大変なので、まだ生まれたての子に対し、ウイルスを投与する形で行われることになった。
ウイルスの名前は「gRNAウイルスα」。
ウイルスの生成は、ネロの遺伝子を使い、その遺伝子を人間の遺伝子の中に自然にとけ込ませる形をとる。
だが、人間とネロの遺伝子は微妙に、しかし決定的に異なり、完全に融合する事は出来なかった。
その為ウンドゥは、2重螺旋にもう1本別の螺旋を追加し、それぞれの螺旋間に「人間としての機能をする塩基対」と「ネロとしての機能をする塩基対」を張ることにした。
その特性上、その人間は3重螺旋を持つ事になる。
ただし、本当の3重螺旋のように、3つの螺旋相互に塩基対が有るわけではなく、2箇所の間にしか張っていないため、完全な3重螺旋ではなかった。

その特性が問題を発生し、被験者となった子が何人も命を落とした。
そして、遂にピッタリとはまった子が誕生した。彼女は「gRNAウイルスα229」というマイナーバージョンによって成功したため、
「ドゥドゥ・ノエチウム」と呼ばれることになった。

ジェノミライ・パンデミック

様々な予備実験を経て、いよいよネロとドゥドゥ・ノエチウムとのファーストハーモニクス実験が行われる。
本来、ファーストハーモニクスはある程度年齢が上がったときに、自我によって行うものであるが、今回はそれを待っていられないため、サポート付きで行われることになった。
ファーストハーモニクスはすんなりと成功した。今までと同じように、ネロはドゥドゥ・ノエチウムを受け入れたのである。
そして、今までの誰よりも、莫大な力を引き出すことに成功したのである。

だがその直後、悲劇が襲いかかった。
皆がそれぞれの場所で、世紀の大成功を目に焼き付けている最中、それは起こった。
ネロがもの凄い勢いで咳をし始め、血の霧を吐いたのだ。
自身の遺伝子と同調したことが問題だったのか、そもそも設計ミスなのか。
ウンドゥ、クラケット達はこの世の終わりのように取り乱したが、その後、そのネロは落ち着いた。
しかし、それは悪夢の始まりに過ぎなかった。

直後、警備のメンバーはバタバタと倒れた。
最初、何か分からなかったが、それは次第に外側に広がっていく。
近場の人々が皆、急に倒れて昏睡していくのだ。
ウンドゥはすぐに察知し、地下施設の全ての空調を止めさせた。その予測は正しく、被害は次第に緩くなっていった。
間違いない。細菌かウイルスの類がばらまかれたのだ。

画面をのぞき込むと、少女はぼーっとこちらを見ていた。
そしてまた、苦しそうに咳をすると、血の霧を吐き散らした。
ドゥドゥ・ノエチウムはすぐ隣に倒れていた。もう彼女の命は無いものと、誰もが思っていた。

事後処理

この一瞬とも言える時間の中、地下研究所における6割の人々がウイルスに感染し、倒れた。
この地下研究所は幸い、気圧を上げるために地上から送風している。お陰でこのウイルスが地上に漏れることはなかった。
だが、ネロが生きている限り、このウイルスは発生し続ける可能性もある。
ネロを観察していると、血を吐いてはいるものの、当の本人は弱っていなかった。
元気があるわけではない。元々ボーッとしており、だが、部屋の中をウロウロと歩き、活動をしていた。

とはいえ、ここまでウイルスをばらまき、現在進行形でばらまき続けている少女に、PHASE2の研究などが出来るわけがない。
研究施設内の殆どの人々も倒れてしまい、研究所自体も機能しなくなっていた。
自体を重く見た天文地文は、ジェノミライに対し実験の中断を命令し、このパンデミックを収束させるためのあらゆる手段を講じるよう命令した。

特に、ネロはすぐさま処分せよとの命令だった。
その役割はウンドゥが行うことになったが、ウンドゥは当時、(研究対象として)ネロを処分するのは惜しかった。
そこで、別の部屋に隔離し、処分したことにした。
ウンドゥはネロが吐き出すウイルスをサンプルし、それを研究した。
そしてそれを元にクラケット達とワクチンを創り出し、状況を回復していく。
(尚、このウイルスの研究データは、後にジルに託され、アストロサイト・モジュラトリ・ウイルスとして応用される)

その後、ネロが生きていることはクラケット、そして天文の一部にもばれてしまう事になるが、
天文はそのままネロを生かしておいて良いという判断をした。
その真意は謎であったが、後にすぐに分かることとなる。

天文吸収後

そして天文

1年ほどの時間を使い、ジェノミライ研究所の除染はほぼ完了した。
除染が完了した事を知った天文地文は、ジェノミライ計画は失敗であったという事で、ジェノミライを解散させる。
この時既に、天文地文箱舟計画で決裂をしていたのだが、ジェノミライは行政上は天文地文の共有施設であり、それを解体するには両者の同意が必要だった。
今までは主に天文が強く推進を進めていたため、解体したかった地文と争い続けていたのだが、遂にそれに終止符が打たれたのである。

当然だが、この件について、地文の中では反対する者はいなかった。
地文は既に天文と分かれた際に、このジェノミライ計画、すなわち時空間をねじ曲げるような行為は人智を越えるものであると判断し、禁忌としていたからだ。

だが天文は、その技術が惜しくて仕方なかった。
特に「シェルノサージュ管」に関しては、G2トロンの次を担う、次世代端末として利用したかった。

その後、ジェノミライの研究者達は天文から秘密裏にオファーがあり、天文へと流れていった。
核となっていた4人にも当然その声はかかった。だが、ウンドゥだけは頑なに拒んだ。
この時、クラケットとウンドゥは天文のやり方に関して真っ向から対立し、大げんかをしている。
パンデミックからの1年間、ジェノミライは天文からの指示に従い、除染と事後処理を行っていた。
その方法が余りに酷だったのである。
感染者を全員焼却するよう命じ、全てのシステムは解体された。
書類は押収され、天文の管轄する極秘の書庫へと入れられた。
だが、ネロに関しては「焼却」ではなく「保護」という命令になっていた。
実際はといえば、ネロを研究所内で見つけることは出来ず、天文の部隊は撤退することになる。

その後天文はクラケットに、ウンドゥに対してネロの居場所を聞き出すように命じられる。
天文にとって、シェルノトロンは今後の命運を左右するものであり、それにはネロが絶対に必要だった。
天文はその為に、ネロを天文側に隔離するつもりだったのである。
だが、クラケットはウンドゥと大げんかをした後でもあり、それを拒否した。
それでも天文はクラケットにウンドゥを説得して吐かせるように命じ、クラケットは渋々それを行った。
結局クラケットはウンドゥの口を割ることは出来ず、天文の交渉人が代わりにウンドゥと交渉をした。

交渉人はウンドゥを尋問し、ウンドゥは仕方なくネロの居場所を伝えた。
交渉人はウンドゥに対して悪くない条件を出した。
ネロは自由にして構わない。天文はネロを奪わない。だが、それには条件がある。
ネロがシェルノトロンとの同調を切らない限り、だ。君はネロとシェルノトロンを同調させておけば、それで後は平和に暮らせる。
ウンドゥはそれに同意をし、誓約書を書かされた。

クラケットとネプツール、グレイコフはこの後、天文でシェルノトロンの研究をすることになる。
だが、クラケットは心を壊して1年で天文を去る。
その後、シェルノトロンは「ネロ」という名前を隠し、先進的な人工生命体「レオン4213」を搭載した、ジェノムのような端末、として発表された。
そして、それを普及すべく天文が100%出資して作った会社「Tzチューブカンパニー」が発足。
ネプツールとグレイコフは、共にこのチューブカンパニーを取り仕切る者として移籍された。

ネロの件は、天文でも極々一部の人々のみが真実を知っている。
そしてそれらの人々は絶対にその事を口外しないよう、常に監視の目が光っている。
それから何年か経過した後、ネプツールとグレイコフが独立したときにも、天文の監視下におかれる事が条件であった。
そして試練の3年間が始まった現在においても、それは継続されている。

ネロ

ウンドゥが天文に行かなかった理由は、ネロのこと、天文が気に入らないこと以外にも、もう1つ重要な理由があった。
それは、地文側から戻ってこいとオファーがあったからだ。
この時期、地文は既に危機感を抱いていた。G2トロンが民衆に浸透し始め、地文の地位が揺らぎ始めていたためである。
G2トロンはジェノムにはない快適さを人々に与えていた。人々の地文離れが起こっていた。
ウンドゥは地文に対しての恩義はあるので、地文からのオファーを受けることにした。
その代わり条件として、ここ(元ジェノミライ研究所)で研究を続けたい旨を伝えた。

地文がウンドゥに依頼したのは、地文の立て直しに関するものであった。
地文は現時点において、カリスマを失っている。
恐らく次のトップ、すなわち調停院の大司教次第では、潰れる事すらもあり得るのである。
故に、今回ばかりはタブーを侵さなければならない。
それは、正当なる継承者ではなく、「確実に勝てる能力者」を大司教に据える事である。
地文はウンドゥに、どんな手段でも良いから能力者を調達して欲しいと伝えた。
例えば、大司教就任前に生身でコーザルと同調出来る存在がいたら、それだけで神光臨も同様になる。

その答えとして、まずウンドゥが試みたのは、ネロを使うことは出来ないか、という事であった。
とはいえ、ネロは今の今まで一言も喋っていない。
そこでウンドゥは、ネロの器質的、精神的両面から精査をすることにした。

器質的な面は、サンプル採取とウイルスの分析、身体の細胞などの分析である。
これにより、ネロのまき散らしたウイルスの分析を更に進め、アストロサイト・モジュラトリ・ウイルスの原型が作られた。
また、gRNAウイルスβに役立つこととなる有力な情報も、この時入手している。

次に精神的な面である。ここでは、ウンドゥの特異的な条件がもの凄く役に立った。
彼は天然のヒトガタ(人間でありジェノムである存在)故に、他の生命と同調することで、内側から精査できるのである。
シェルノサージュ管を用いたネロとのコンタクトには、限界があった。
彼女が心を開くか否か以前に、シェルノサージュ管自身が「ガラス越しのコンタクト」にしてしまっているのである。
それ故に、シェルノサージュ管ではジェノムのように一心同体になることは不可能だ。
そこでウンドゥは、逆に自分がジェノム側の存在となり、ネロという人間と同調する、という事を考えたのだ。
立場の逆転である。

だがそれには、最低限ノーマル状態まで警戒心を薄れさせ、同調を許可してもらう必要がある。
ウンドゥは毎日毎日、ネロとうち解けようと、様々な方法を試みて安心させた。
そして数年が経ったとき、初めてネロとの同調が実現した。
長い年月がかかったが、この廃墟となったジェノミライ研究所で孤独に研究をしている彼にとって、ネロとの対話は心の癒しにもなっていた。

「カノイール(カノン)」という存在の誕生

ネロと同調し、彼女のジェノメトリクスへと入ったウンドゥは、驚くべき感覚を体験する。
自分はヒトガタという事もあり、相当の帯域幅を持つ。だがネロのキャパシティはそれを遙かに凌駕していた。
というより、果てがなかった。全てを受け入れる、とてつもない帯域幅だったのである。
シェルノサージュ管を介してでは、この「果てしない世界」を体感することは出来なかっただろう。

ウンドゥは自分の思惑が正しかった事を喜んだ。地文からの要請には、間違いなくこのネロが使える。
だが問題点は、一言も喋らず、何の感情も出さないことであった。
ウンドゥはそこから更に何ヶ月もかけて、ネロを社会生活に適応させようとしたが、結局それは叶わなかった。
また、天文との契約もくせ者だった。ネロを外に出せば、それと判らぬよう隠していても必ずばれてしまう。
そうなれば、次は何をされるかわからない。

ネロと同調し、毎日ジェノメトリクスに入るうちに、ウンドゥは彼女がこの世界に適応するのは無理だと悟る。
そして諦めかけた頃に、ふと1つの記憶が蘇ってきた。
それは、ドゥドゥ・ノエチウムの事であった。
彼女はネロの吐き出したウイルスを最も近場で浴びた存在であるが、その後奇跡的に回復し、現在も元気に生きていた。

その後、ドゥドゥ・ノエチウムを精査したが、彼女もまたネロの遺伝子を持つ驚くべき存在であった。
そしてネロは、ドゥドゥ・ノエチウムを地文のリーサルウエポンとして引き渡したのである。
尚、ウンドゥは地文幹部に対しては、「ネロがいた頃に培った様々なノウハウを結集し創りあげたウイルスを、この子に投与しDNAを変成させた」と伝えている。
除染をしているとはいえ、ウイルスをモロに浴びた人間であると知ったら、確実に拒否されると思った為である。

若き科学者、ジルとの出逢い

ウンドゥはもう、一生日の当たる研究をすることはないと思っていた。
ジェノミライ研究所は既に閉鎖も同然で、ウンドゥの我が儘で、地文のコネによりここにいさせてもらっているようなものだった。
地文の幹部からしても、ドゥドゥ・ノエチウムという最強の子を創りあげたウンドゥには一目を置かざるを得なかった。
地文幹部はその後も、様々な要求をウンドゥへした。それらは全て、地文の栄華を復活させるために懇願されたものばかりだった。

そんな最中に、地文幹部から一人の助手が、ウンドゥの元に派遣されてくる。
ジリリウムというその娘は、世の中に揉まれて何も信じないというような顔をしていた。
「きっとこの娘は、地文幹部が私の行動を監視するために仕向けたのだ」とウンドゥは思った。
とはいえ、逆らうことは出来ないと知っていたから、ジルを受け入れた。

だが、ジルとしばらく共にいると、どうにも居心地がよい。
今まで一人でいるのが一番気楽で自由だと思っていたが、ジルといる時間の方がよほど好きになった。
そして二人は恋に落ちていく。
ジルが地文からの差し金ではないと確信を持てたある日、ウンドゥはネロをジルに見せる。
そして、ネロを利用し、現在は禁忌となっている7次元理論の完成と、
ネロの持つ様々な有機体から取り出せる新種のウイルスから、今までにない有用性を持った薬を作ることを語った。
ジルはそれを心の底から楽しんだ。

ウンドゥとジルが取り組んだ歴史的なウイルスは2つある。
1つは「gRNAウイルスβ」であり、もう1つが「amRNAウイルス(アストロサイト・モジュラトリ・ウイルス)である。
前者は未完成のまま現在もジルが単独で研究しており、後者は有る程度完成している。
そして前者はウンドゥがジルのために作っていたものであり、後者は現時点では、その副産物でしかなかった。

前者、gRNAウイルスβは、カノンに投与されたαタイプの発展型である。
αタイプは、帯域の増大及び遺伝子鎖数の増加により、ジェノムとの交流が通常の人間よりスムーズに行えるようになるウイルスである。
だがカノンは、地文幹部が完成をせかしたこともあり、急ごしらえであり、1つの大きな問題を抱えていた。
それは、強い想いを持って詩魔法を使う(=ジェノムとの同調率が激しく上昇し、もの凄い量のエネルギーが行き来する)と、
カノンの物理ボディが導力量に付いて来れずにオーバーヒートしてしまうのである。そうすると、高熱を出して倒れてしまう。
これらの機能を改善し、更にすさまじい機能を付ける計画が、gRNAウイルスβの計画である。

gRNAウイルスβは、「ヒトガタ」を人工的に作る事を目標としていた。
カノンは3重螺旋の遺伝子を持つことが出来、後もう少し改良すればヒトガタという所まで来ているのである。
そしてこのgRNAウイルスβを作ろうと思った理由は、ジルが絡んでいる。
なぜなら、ヒトガタになることで、寿命がジェノム並みに延びるからだ。
ウンドゥはジルとずっと一緒にいたかった。ウンドゥ自身がヒトガタだから、ジルの方が遙かに寿命が短いことが辛かったのだ。
だが、gRNAウイルスβは、カノンが持つ欠陥と同じ欠陥が生じ、大切なジルに投与するわけにはいかないものだった。
結局gRNAウイルスβはウンドゥが生存していた間には完成せず、その後ジル単独での研究に受け継がれていく。

悲劇的な運命の始まり

試練の3年間開始から7年前のこと。
ウンドゥがgRNAウイルスβの研究の一巻で、データ採取の為、ネロのジェノメトリクスに入った。
そしてそこから悲劇が始まった。
ウンドゥが帰ってこないのだ。何日経っても帰ってこない。ジルは事故ではないかと思い始めた。

実際それは正解で、ネロがウンドゥを支配し、出られないようにしていたのである。
ネロはこの頃、ウンドゥに対して愛情が芽生え始めていた。最初は自分を痛めつける人間ということで恨んでいたが、
その後、数年にわたる二人だけの生活(?)において、ネロはウンドゥを信頼し始めていたのである。
特に、身体と精神が同期できずにウイルスを吐き続けていた最初の頃、ウンドゥはそれを順応させるために試行錯誤した。
ネロは、どうやったかまでは知らないが、とにかくウンドゥがこの重く辛い身体を、今の状態、普通に過ごせる状態にまでしてくれた。
また、処分されるところを匿ってくれたりした。
ネロはいまだに「表現」が出来るところまで到達していないが、ウンドゥのことを慕っていたのである。
そんな中でジルという存在が出てきて、更にネロの力をジルのために使うという。
ネロはウンドゥがジェノメトリクスに入り込んだとき、それを知ってしまった。
ネロはそれによって怯えた。1つは、自分が捨てられる思い、一つは嫉妬である。
そしてそれによって、自分はもう自分の世界に帰れないのではないかという想いが生まれた。
そこで、ウンドゥを心の中に縛り付け、完全同調から分離状態に戻れないようにした。
ネロは、ウンドゥと共に、自分の世界へ戻る術を探すための手段に出たのだ。

ジルは、ウンドゥを様々な事でネロから引き剥がそうとしたが、出来なかった。
強引に離脱させる手法もあったが、ウンドゥまで傷つくものであった。
その後ジルは、ウンドゥとネロのことを伏せながら、地文幹部を騙し騙し、自分の仕事をしながらウンドゥを剥離させるための方法を試行錯誤した。
そんな時、ネロがジルに提案をしてきた。
自分を7次元先へと戻す方法があれば、ウンドゥは返す。残して自分だけ還る。だから協力して欲しい、と。

ネロはその中で1つ、近道を提案した。インターディメンドという方法だった。
だが、この時点ではアルノサージュ管がまだ出来ておらず、過去の文献の中にも、ネロを7次元先から連れてくる装置については書いていなかったので達成できなかった。
そんな最中、シェルノトロン・パニックという事件が発生してしまったのである。

シェルノトロン・パニック

シェルノトロン・パニックは、一瞬にして全シェルノトロンが停止し、世界的な麻痺が発生してしまった事件である。
この原因を天文はすぐに断定することが出来た。それは「ネロ」に何か異変が起きた、という事であった。
天文はこれを、ウンドゥの契約不履行と決め、ただちにネロとウンドゥを拘束する決断がなされた。
だが、「ネロ」という存在の素性、すなわちジェノミライ研究所は既に世界全体としての禁忌として見られており、シェルノトロンがそれに関与しているとバレルのはまずい。
そこで天文は、地文の科学者にその罪をなすりつけ、「シェルノトロンを悪と見る地文科学者によるハッキング」と断定した。

その後、ジェノミライ研究所に天文がガサ入れに来たのである。
ジルはネロ(とウンドゥ)を隠し、自らは逃げ出した。だがその後ネロは、天文に見つかってしまった。
天文はネロの本体を管理研究すべく、それ以降、ジェノミライ研究所を天文の監視下に置いた。
そしてネロは、もう何も出来ないようにシェルノトロンサーバーと呼ばれる装置に繋がれ、冷凍睡眠されることとなった。

関係者は地文から強制的に抹消され、特に関係ない科学者も、カモフラージュの為に解雇された。
ジルもその「さして重要ではない助手でありながら、関係者として解雇された一人」であった。
こうしてジルは、ジェノミライ研究所に入ることも出来なくなった。
だが、彼女はウンドゥを救い出すため、ジェノミライ研究所へ戻る決意をしていた。
そして、その時を研究の日々と共に待ち続けたのである。

天文によるジェノミライ強制捜査についての真実

天文は、地文の研究者が「シェルノトロンに悪質なハッキングをした」と断定し、その処理を行った。
だが真実は、シェルノトロンのマスター…人々には「仮想生命OSレオン4213」と宣言している生命のマスター、7次元先の生命「ネロ」の存在の隠蔽であった。

ネロの事が大衆にバレルと、2つの意味で天文に損害が生じる。
1つは、シェルノトロンがネロを使っていること。
もう1つは、禁忌とされた「7次元生命の召喚」を今後行う予定があること。であった。

グランフェニックス計画で必須項目である「7次元先の世界からの生命の召喚」は、元々ジェノミライ計画で行われたもの。
だが、それは既に禁忌となっており、この地下に封印されている。
それは民衆には公開されていない、闇から闇へと葬り去られた真実であった。
故に、その事を地文に公開されたら天文は終わりである。
更に、その「禁忌となった理由」まで公開されたら、いくら天文とはいえ一気に失墜するだろう。
なぜなら、その時発生した狂気的なウイルスに関しては、全ての民衆が知るところだからだ。

ちなみに、「シェルノトロン・パニック」を引き起こしたのは、当然ながらネロである。
それによって天文は、ジェノミライ研究所を襲ったのである。

こうして「ジェノミライ研究所」は一旦、歴史の表舞台から姿を消すことになる。

ジェノミライ潜伏期

amRNAウイルスと、ジルの転機

ジェノミライ研究所を追われたジルは、その後自分で資金を集め、ウンドゥを救い出す為に奔走する。
最初、様々な遺伝子薬の研究を、各方面の研究所に持ちかけたり営業して回っていたが、あまり成果は出なかった。
その為、ジルは大変な苦労をした。

そんな時、地文派幹部と言う人達がジルの元に訪れ、1つの依頼をした。
それは、amRNAウイルス(アストロサイト・モジュラトリ・ウイルス)の改良と実用化を協力して欲しい、ということだった。
地文は今、ジェノムが全然生まれなくて大変苦労している。そこで、amRNAウイルスによって強制的にジェノムの数を増やすというのである。
amRNAウイルスは、人間に投与すると、ジェノムと宿主との間に沢山の子供を作る。体力とか考えずに限界まで産み落とす事が出来る。
宿主である人間は大抵死んでしまうが、一夜にして10体のジェノムが生まれる。
これをもっと、高効率にして、人があまり死なないように、そしてジェノムがもっと生まれるように改良して欲しいとのことだった。
ジルは、地文もそこまで落ちたか(身の振り考えないようになったか)と思ったが、資金も底をついていたし、地文には世話になったので引き受けた。
amRNAウイルスは副産物であり産業廃棄物のようなものだったので、それがお金に替わるとあれば、これほど素晴らしい事は無い。
ジルはamRNAウイルスによって、更に資金を得ることに成功した。

そんな地文がある日また来て、こう言った。
空想型ジェノムを生み出すamRNAウイルスは自我がない。それを統率する個体を作ることは出来ないか。
ジルは心当たりがあったので、やってみると言った。ただし、完成したときには途方もない成功報酬を要求すると。
地文幹部はそれを呑んだ。こうして出来たのが、shsヘテロマイシン(シャール・スーパーインテンド・ヘテロマイシン)であった。
amRNAウイルス生成時に、認識コードが暗号化されて遺伝子に入っている。
それと同一コードの遺伝子を持つシャールにこの、shsヘテロマイシンを投与することで、同一コードのたちを束ねる事が出来るウイルスなのである。
またそれは、シャールの親玉としてシャールからエネルギーをもらうことが出来る為、実質この世界で独り立ち出来るようになるのである。

▼参考:ジルの研究したウイルス▼
ジェノマイズRNAgRNA-αウンドゥ/ジルウンドゥの設計宿主脳内のバスを拡張し、どんなジェノムとの同調も可能にする
gRNA-βジルαから機能拡張人間をヒトガタに変成する。shsヘテロマイシンによって完成に近づいた
脳変成RNAamRNAウンドゥ/ジルネロから抽出人間に投与することで、カスタマイズジェノムを爆発的に生み出すことを可能にする
shsヘテロマイシンジルamRNAから変成シャールに投与することでバージョンアップし、統率体に変成させる

地文幹部はプロトタイプのshsヘテロマイシンに多額の支払いをし、更にこれを洗練するよう要求した。
この時の事が転機となり、ジルはフォーシーズンに研究所を構えた。その理由は、高効率にパトロンを得るためだった。
ジルはこの資金を元に、本来の自分自身の研究である、人間のジェノム化を行うウイルス「gRNAウイルスβ」の研究を推進した。
だがジルは、この時まだ気づいていなかった。地文幹部は、実は天文幹部だったのである。
天文幹部がなぜ地文のフリをして、この2つの薬を依頼したのかは、「ジェノミライ・プロジェクトⅡ」にて解説する。

ジリリウムとネプツール

その後は順調であった。ジルはgRNAウイルスβの目処が立ったため、フォーシーズンの富裕層にこの薬をセールスした。
主に中立裕福層に対して「不老長寿の薬」として売り込んだこのgRNAウイルスは、かなりの注目を集める。
そして、このウイルスの開発資金として多額の援助を得ることに成功した。

その投資者の一人に、ネプツール・プランクがいた。
ネプツールは元ジェノミライの研究員だが、ウンドゥは昔の話を一切しなかったため、彼が元同僚であることは知らなかった。
ネプツールは一人娘サーリの為にgRNAウイルスβを欲しがり、特に多額の援助をしてくれた。そのお金はカンパニーの資金からであったが、ジルにはそこはどうでも良かった。
とにかく、ジェノミライ研究所という存在が、この世界では無いものとして扱われているため、お互いがその研究所の出身であることを知るのには時間がかかった。

そしてそれは、ひょんな事から発覚する。
ネプツールがした自慢話が元だった。
我が社は今後、新たなトロンの開発に乗り出す。それが完成すれば、シェルノトロンの5倍以上のパワーを期待できる。
現在のレオンOSは、その潜在的な力の一割も使っていないが、新型トロンは8割以上を使うことが出来るからだ、という事だった。
ジルはネプツールがシェルノトロンとレオンOSについて、一般人程度の知識しか無いと思っていたので、この発言には驚いた。
ネプツールの発言は、暗に、レオンが生命である事を前提とした発言に聞こえた為だ。
そこでジルはカマをかけ、ネプツールにネロの存在についての話をすると、ネプツールはビックリした。

そこから先は早かった。
レオンOS(ネロ)の深層意識にアクセスする方法は、ジルが良く知っていた為、ネプツールはジルへの協力を扇いだ。
そして、新型トロンとなるネプトロンの開発は急ピッチで進められていく。
その目的は、ネプツールは世界を操作すること(支配)であり、ジルはネロとの対話とウンドゥの救出であった。

イオンの登場

それから3年後。そんな時、同じく異世界から来たイオンが現れた。
ジルは裏情報で、イオンがネロと同じ、7次元先から来た生命である事を知る。
7次元先の存在は、この世界を隅から隅まで自由に見る事が出来るのは、ウンドゥからネロの事を学んだ時に知っている。
イオンの力を使えば、ウンドゥとネロを剥離することや、ネロの元へ移動することすらも可能な詩魔法を紡げるかも知れない。
だから、ネイにイオンを連れてくるように命令した。

だが、ネプツールがそれを知ると、ネプツールはイオンに会いたいと思うようになった。
ネプツールはイオンが俯瞰視点を持つ事は知らなかったが、イオンが皇帝になった暁に、その「皇帝の声帯」を持つイオンに、サーリの病気を治してもらおうと思った。
だから、これでもかというくらいにおもてなしをし、ワイロを渡して、皇女の衣をもらおうと思ったのである。

ネイは、ネプトロンの詩を謳う事は約束していたので、どのみちチューブカンパニーには行く用事があった。
しかし本来そこには、イオンは無関係だったのである。
ネイはジルからの命令で、急遽イオンをネプツールの元へ連れて行く事になる。
ネイは最初、カンパニーへイオンを誘導していたが、ネプツールが夢ノ珠の件で暴走し始めたので、警戒してイオンを遠ざける。
だがそれは、ジルにとっても不都合だった。ネプツールはネイが勝手に警戒したとジルに告げると、ジルはネイを叱った。
何でも、もうすぐにでも詩を謳う事になるから、そもそもネイには来て貰わないといけない、ということだった。
そして第三幕ラストで、ジルはネイに、早くカンパニーに行けと命令する。ネプツールを怒らせるな、と。
ネイはジルにネプツールの怪しさを暴露するが、ジルは、やばそうなら連絡してこい、かつ、ネプツールを自力で何とかしろ、とだけ言う。
ネイはしぶしぶ従う。
ネイがジルとネプツールの契約に入っていたのは、とある詩をネイが謳うことだった。それはヒトガタにしか謳えない詩だった。

ネプツールとジルの間でなされていた契約は、ネプトロンによってネロの全てと同調できるようにすること
(シェルノトロンは、ネロの精神世界Lv2くらいが限界だが、ネプトロンによってLv9までのアクセスが可能になる)、
そしてそれと繋がる専用線をジルに与えることだった。
その為には、最後のプロセスとなる、封印された心の扉を開ける事が必要になるが、ネロに対してその作業をするのはあまりに危険が伴う事が判っている。

だがネプツールは、既にジルを出し抜くべく作戦を立てていた。
ネプツールは既にタイプライターでネロと会話をしており、ダイバーが扉を開けたらスワップする事よう打ち合わせていた。
だから敢えて、ネプトロンのセキュリティの一部を外していて、ネロがこっちに出てこれるように設計されていた。
しかしその事自体はジルたちには伝えていなかった。もちろん、スワップ相手がイオンであることも。
ジルは、確かにイオンとネロをスワップすれば、イオンの身体にネロとウンドゥが詰まった状態で受け取れる事はわかっていたし考えもしたが、
ネロのスワップは大変危険であると判断していたので、その線は没にしていた(過去にジェノミライでウンドゥが囚われているし、どう猛な精神である為)。

ネイが聞かされていたのは、イオンは単純に、ネプトロンの起動試験に立ち会ってもらい、この世紀の大偉業を見てもらうというだけの話だった。はずだった。
だが実際にはイオンがダイバーだとネイは知ることになる。
ダイバーとは、魂の交換相手のことである。ネイはネプトリュードが、昔フラクテルが謳った詩の改造版であると知っていた。
しかしその詩によって魂のスワップを行う対象がイオンだとは聞かされていなかった。

ネプトリュードを謳ってイオンがネロとスワップする。これは過去に自分がされたことで、その辛さは良く知ってる。
だからイオンに同情せざるを得なかった。だが、ここでやめることもできない。
しかし、ネロが暴走し始めたことにより状況は一変する。
万事休すの状態でイオンが身を呈してネロを食い止めたことがきっかけで、ネイはイオンを元に戻そうと決意する。
そして再度ネプトリュードを謳う事で、イオンとネロをひっくり返す。

ジルとネイの出逢い、決別

ネイは、ある意味ジルに救われた存在だった。しかし条件付きで。
ネイの身体はシャール(人工量産型ジェノム)だが、それは空想型ジェノムだったため、ネイは誰かと同調していないと死んでしまう状況だった。
だが、ジルはシャールの生みの親でもあり、そのシャールを独立生存できるようにする為のshsヘテロマイシンを持っていたため、ネイは普通に生きられるようになった。
ネイはその代償として、ジルに丁稚することになった。

ネイがジルと共に居るのは、もう1つの理由があった。
ネイの身体を奪ったイオンから、自分の身体を取り戻すためだった。
ジルはネイの話を聞き(ネイは天文の恨み辛みをジルに全部ぶちまけたから、ソレイルの機密も全部喋った)、その方法や元に戻すノウハウを持っていると言った。
その時ジルはびっくりした。

実は、ジルがネイを迎え入れたのは、ネイがシャールボディを身に纏っていたからだ。
ジルはネイがamRNAウイルスで作られたシャールボディを身に纏う、しかし傀儡ではない精神を持つ存在だった為、大変興味深かった。
そしてネイの吐いた過去で更にビックリした。地文幹部にしか流出していないamRNAウイルスをなぜか、天文が持っていてソレイルにあるというのだから。
ジルは地文幹部に連絡を取るが、既に音信不通であった。ジルはまんまと天文にやられた、と思った。
ジルは天文に恨みがある。ウンドゥやジェノミライをとられた。自分の人生をぐちゃぐちゃにした。
その天文が、今度は地文を偽ってamRNAウイルスとgRNAβを奪った。天文には復讐してやらないと気が済まない。
ジルは、天文の件に関しては、刻が来るのを待つことにした。

何にしても、ジルはネイに、魂のスワップをしてあげることを約束し、その代わりしばらくの間、自分の手伝いをするよう命じた。
まずジルがネイに命令したことが、イオンをジルの元まで連れてくることだった。
ジルは別件でイオンを欲していたし、ネイのイオンに対する恨みも凄かったので、ジルにとってもネイにとってもこれは願ったり叶ったりだった。

そこでネイはイオンに近づき、フォーシーズンへ連れて行くように誘導することにする。
しかし、ネプツールの暴走により計画は頓挫し、ネイはPLASMAに捕まり、あわや万事休すというところまで来てしまった。
それを偶然助けたのが、クオンタイズでありサーリであった。

ジルはネイのことはあまり大切にはしていなかった。
単なる研究材料でしかなかったし、自分の製造したシャールの状態を直に見られるサンプルでしかなかったから。
そんなジルが、わざわざネイを手元に置いておいたのには1つ理由があった。
それは、ネイがシャールであり、シャールが「なぜか」天文の、しかもソレイルに生存していたからである。
ジルがネイに投与したshsヘテロマイシンは、シャール統率ウイルスである。しかしそれは、シャールでなければ投与しても効果が無い。
シャールの統率コードは天文の培養したamRNAウイルスにより決まっており、ジルはそれを作れない。
そして今ここにいるネイは、そのコードを持って生まれたマスターシャールである。すなわちそれは、シャールを支配できることを意味する。

ジルは、いずれネイを連れてソレイルに行くことになると思っていた。
それはネイにとっての悲願であったし、ジルにとっても自分の研究が何に使われているのかを知りたいからだ。
その時、全シャールをコントロールできる事によって、敵地で優位を保てるのである。

インターディメンド

ネプトロンが稼働し、レオン4213、すなわちネロの精神の封印が解かれたことは、ジルにとって思わぬ幸運をもたらした。
ター坊の持っていたノンセキュリティ端末によってネロが顔を出すことが出来るようになり、それによってネロがジルの元へ現れたのだ。
ジルはネロを自分の研究室へ連れて行き、作戦会議を開くことにした。

ネロは、現状は最初で最後のチャンスだという。
絶対に失敗は許されないから、ジルに「インターディメンド」をして欲しい、というのである。
ジルはビックリする。過去に自身がジェノミライ研究所にいた頃、それは不可能だという結論に至っていたからだ。出来ていたらその時にやっている。
だがネロは、今なら出来るという。なぜなら、天文がアルノサージュ管を作ったから。
インターディメンドを行えば、現状の「詰んだ状態」を確実に打破できるという。

ジルはインターディメンドについて、過去には少ししか話を聞かなかったから、改めて詳細をネロに聞くことにした。

太古の時代、ネロが遠く離れた惑星ラシェーラから、この星シャラノイアにワープをしたとき、様々な装置と詩が作られた。
それらの装置や詩の設計図はこの地下深く、現在のジェノミライ研究所の付近に埋蔵されていたわけだが、その中の1つに「インターディメンド」というものがある。
ネロはウンドゥと共に、インターディメンドについて解読して、プログラムモジュールを組んだのだそうだ。

インターディメンドとは、7次元先の世界の人間による無意識下の操作を可能にする仕組みのこと。
これを行うことで、ジルは7次元先の、すなわちネロの住んでいた世界の住人の、実質傀儡となる。
だが、完全に魂を乗っ取られてしまうのではなく、ジルがそれを自分が考えた事であると錯覚し、自覚は全く無いのである。
古代の人々は、この仕組みを使い、7次元先の世界へコンソールを送り込んで目的を与えて動かすことによって、この超常的な奇跡の力を使うことに成功したという。

このインターディメンドを行うことで、ネロにとって良いことがあった。
インターディメンドをする7次元先の住人は、こちらの世界の時間軸や可能性軸を超越した行動が出来る。
(限界としては、一人のクオリアに入り込む為、操作可能なのは5次元までであるということである)
もっと簡単に言えば、失敗したらリセット出来るし、ジルからは見えないところの場所を見る事も出来る。
だから、目的達成のための行動は、かなり効率を上げることが出来る。

	インターディメンドが唯一防げないのは、6軸以上からの干渉。
	すなわち、簡単に言えば他人の行動を左右する事は出来ないので、状況的に「詰む」ことはある。
	だから100%ミラクルに成功することはあり得ない。
	また、インターディメンドを行う人物の身体的能力を超えることは出来ない。分かりやすくまとめると、以下のようになる。
	  1.敵や他者との遭遇を回避することは出来ない(自分以外のコントロールは不可能)
	  2.思考能力や感情、気性の限界を超えることは出来ない(行動の操作に限界がある。強い敵には何度試しても勝てない)
	すなわち、RPGの主人公と同じである。

要するに、ジルにインターディメンドをインストールして、7次元先の住人に救援を要請する。
すると7次元先の存在は、ジルをコントロールして、ネロを確実に元の世界に戻れるように試行錯誤するのである。
ジルからしてみれば、様々なひらめきや勘(もしくは運)によって行動していれば、どんどんジル救出に確実に向かっていけるのである。

ただ、ジルからすればこれはかなり抵抗がある行為であった。
自覚がないとはいえ、操られるわけであり、当然かなりのリスクが存在する。
ネロもそれは分かっているため、条件を出した。インターディメンドによって自分が自分の世界に帰れるときには、ウンドゥはこの身体に残していくと。
すなわち、ウンドゥとネロの分離が行われるということである。
それはジルにとっても、1日でも早く達成したいことであったため、ジルにとってのメリットでもあった。
だからジルはそれを受け入れた。

ジルは、インターディメンドをする為のプロセスを、ネロから聞き出した。
それによると、準備は2つ。
1つはジルがシェルノトロンと同調し、インターディメンドのTxBIOSを使い謳う事。
もう1つは、そのシェルノトロンをアルノサージュ管とチェインすること。

1つめは、ネロがジルのシェルノトロンに送ってきたプログラムによって簡単に達成できる。問題は2つめである。
アルノサージュ管は、現在ソレイルにしかない。それはイオンをこの世界に召喚したプロトタイプである。
しかしジルは、どのみちソレイルに行く予定はあった。それは、あの娘ネイの要求を満たすためであったが。
タイミング良く、今ネイとイオンはこのフォーシーズンにいる。ネイにイオンを連れてこさせれば、ソレイル攻略は可能だろう。
あの子はソレイルを全部知ってる(フラクテルの記憶があるので)。更に、シャールを従順に出来る(ネイに投与したshsヘテロマイシン)。
今こそ、ネイに投資した全てを回収する時である。

ネイは、フォーシーズンに来て、一度ジルの元に訪れている。
その時ネイは、イオンをすぐにここに連れてこい、という問いに対して、ちょっと待てと言っていた。
ネイはジルを信用していなかった。昔から信頼関係なんて無かった。

そして2回目にジルの研究室へ行ったとき(キャスが捕まっていると思って殴り込みに行ったとき)、ネイはジルと決別した。
なぜなら、ジルがネイを殺すと、ネロ(ター坊)と話をしていたからである。
ネイは、ジルがあまりに姑息なので、ター坊と(捕まっているであろう)キャスを解放するのと引き替えに、自分はイオンを連れてくる、という交渉をする予定だった。
だが、部屋に入り、まず盗み聞きしたネロとジルの会話はこうだった。
「ソレイルにネイとイオンを連れて行き、ネイにはシャールの統率をしてもらう。その間に自分はアルノサージュ管と同調し、インターディメンドをする。
 イオンはそのまま。ネイとはそこで終わり。魂のスワップ?そんな事やってるウチに出られなくなったらどうするの。やるわけない」
この話をネイが聞いてしまったことで、ネイとジルは破談する。そしてネイは、サーリに賭けることに。

ジルはここから、茨の道を歩むことになる。
サーリはクラケットと繋がっており、イオンを7次元先へ返すところまでリーチがかかっていたのである。
それに気づいたジルは、出発直前のネイを糾弾。ネイとジルは会話。
「あなたたち、まさか、イオナサルを返そうっていうの!?」
「ご明察。もう全ての材料は揃ってる」
ここでジルは血の気が引く。自分の研究が盗まれたことが最後のピースとなって、クラケット達はリーチしたのである。
ジルは猛反撃に出るが、ネイの決死の防御(ネイ曰く、最後の落とし前をつける)によって阻止されて、その間にイオンとサーリはジェノミライ研究所へ。

ジル拘束

ジルはジェノミライ研究所でクラケットたちを脅し、ネロをポッドから出すことに成功する。
そして、反論するクラケットたちを、ネロと一緒に6次元移動することによって肯定派に変え、ネロを7次元先へ返すことに成功するのであった。
だが、それは成功ではなかった。理論上では、こちらの世界で何千年経っていようとも、向こうの世界の元の時間と可能性位置に帰還できる筈だった。
しかしそれは無理だったのである。向こうの世界に送るとき、どこに辿り着くかは不定。しかも、こちらの世界にいては、ネロの俯瞰視点も自分の世界を見る事は出来ない。
ネロからの救援をキャッチするが、そのまま無視するジル。
しかしその声はイオンにも届き、イオンはネロを助けようとする。同時にイオンは、自分が同じ立場だったらと思いぞっとするのである。

ネイの協力により、6軸移動を再び行い、全てが元に戻る位置、ネロがポッドから出る瞬間まで戻す。
クラケットがポッドを開けるのを阻止し、PLASMAによってジルは拘束された。
ここへ来て、ジルはついに天文に捕まってしまったのだ。

だが驚くべきことに、これはジルにとってむしろ好機になるのである。

ジェノミライ・プロジェクトⅡ

『ぱれすにゅろきーる』とジェノミライ

ジェノミライⅡは、天文の極秘プロジェクトである。その場所は、超巨大移民船ソレイルの中である。
ソレイルは昔、天文地文の下部組織であった頃に創っていた、1世代前の生命救済計画の遺物である。
現在は天文がグランフェニックス計画、地文がセーブベゼル計画をそれぞれ推進しているが、昔は共同でソレイル計画(移民船計画)を遂行していたのである。

現在ソレイルは、天文が買い取り、そこにテーマパークを作っている。それが「ぱれすにゅろきーる」である。
表向きは、資源再利用ということで、国民サービスの為に天文が作った福利施設である。
ソレイルの完成している部分だけでもかなりしっかりとしたコロンとして成立するものであり、それを廃墟にするのはもったいない、ということだ。

だが、実はそれは表向きのものであり、その内側では極秘の研究がなされている。
この旧移民船ソレイルは、グランフェニックス計画が成功し、新たな惑星へ移住した際に稼働する、次世代シェルノトロンサーバーになるのである。

現在のシェルノトロンサーバーは置いていく。というか、サーバーやインフラは、ラシェールフューザーによって潰れてしまうので、置いていくも何も無い。
だが、ここで問題なのはネロという存在なのである。
現在、ネロのクオリアがこの座標上にある為に、太陽ベゼルは膨張している。5000年前、古代の人々が失敗したのは、ネロを連れてきてしまったことである。
ネロは7次元先の存在である、この座標を重くしている。それ故に現在、この惑星には全てのエネルギーが降りかかってきている(それがバーストになっている)。
ネロを連れてきてしまったが為に、この惑星(旧名シャラノイア)は5000年の命しかなくなってしまったのである。
だから、天文は次の地に、7次元存在を連れて行くつもりはない。ネロだけでなく、イオンもである。
イオンに至っては、ラシェールフューザーを謳わせたらその後、置いていくつもりなのだ。

ジェノミライ・プロジェクトⅡの全貌

ソレイルの艦内は、第二世代ジェノミライ研究所となっている。
ここで行われている研究は、大きく分けて2つ。1つが「ラシェールフューザーに向けての準備」、もう1つが「次世代シェルノトロンサーバー」である。

ラシェールフューザーに向けての準備というのは、言わずと知れた、イオンをアースから誘拐してきたことである。
すなわち、アルノサージュ管を用いた7次元コンタクトと、それによる7次元俯瞰視点を持つ人間の創造だ。
これら2つの研究は、どちらも「天文が権力を失わずに惑星移住を行う為に必要な研究」であり、両方が成功しなければ意味が無いのである。

アルノサージュ管と7次元接続計画

言わずと知れた、イオンがアースからシェルに転送される事になった計画である。
アルノサージュ管は、この時まだプロトタイプであるが、その役目は十分果たせたと言える。

7次元先からの魂の召喚、という事以外は、ネロの時と原理は同じである。しかし天文は、ネロの時とは敢えて違う方式を採った。
ネロの時は、人工的に身体を培養して作り、その中にネロを封じ込めた。しかし作られた身体である事が災いし、ネロは苦しんで使い物になるまで時間がかかった。
その事もあり、今回は生きた身体を使うことになった。その生きた身体とは、イオナサル・ククルル・プリシェールの身体であった。

その時、その身体にはネイの魂が宿っていた。簡単に言えば、ネイこそが本物のイオンなのである。
そのネイの魂を追い出し、7次元先から引き寄せたイオンの魂を身体に入れるのである。

アルノサージュ管を通じて、アース側の電子ネットワークに釣り針を垂らしたのはつい先日のこと。
その釣り針、トロイの木馬とも言えるアース側の装置を、設計図通りに作ったのが結城寧だった。
そして、召喚するための詩魔法「アルシェルノ Class::AR-CIELNO=>extends.TX_CLUSTERS/.」を謳ったのはフラクテルである。

7次元を超越する話なので説明が難しいが、トロイの木馬である電子回路の図面を送信した直後に謳っても構わなかった。
シェルの時間軸とアースの時間軸は異なるため、アース側で数千年埋もれていたとしても、シェル側では瞬間的に掴まえることが出来る。
こうしてイオンが捕まり、こちらの世界に引き寄せられた。

尚、第4幕でネプツールがネイに謳わせたネプトリュードは、このアルシェルノと原理の一部は同じである。
すなわち、魂の宿る肉体をスワップするのである。アルシェルノはそれにプラスして、7次元先の魂にアクセスするプログラムもされている。

これによって、ネイは自分の身体から出され、廃棄用のトロンに一時的に精神アドレスを移し替えられた。
結城寧はイオンとして生活するようになり、ネイはこのトロンに魂を入れられたまま、廃棄されるのである。
しかしそれは、この詩を謳ったネイの親友であるフラクテルによって救われることになる。
詳細は後述。

次世代シェルノトロン計画

ネロの素晴らしいところは、一人で数万人に対して、同時に詩魔法を提供できるところである。
通常のジェノムが代わりになっても、こんな事は出来ない。当たり前だが、一人につきジェノム1体となる。
次世代シェルノトロンの原理は簡単かつ稚拙なものである。
それは簡単に言えば、ソレイルの中に数万体のジェノムを押し込んで、それを中継器を使うことでシェルノトロンから同調できるようにする、というものだ。

言えばシンプルだが、実際はかなり不可能に近い。まずジェノムを数万体も押し込む事は不可能。
生命だから、放っておけば死ぬし、またジェノムには個性もある。だから、シェルノトロンに同調する度に違うジェノムと繋がってはたまらない。
だから、天文がこの無謀な案を実行に移したのは、さほど昔のことではない。せいぜい5年前くらいのことである。

その鍵となったのは、ジェノミライ研究所でウンドゥとジルが解明に当たっていた「amRNAウイルス」であった。
没収したウンドゥの資料の中にあったamRNAウイルスの記録は、天文に一つの光を生み出した。
amRNAウイルスを投与された人間は、ジェノムとの間に沢山のジェノムを生む。宿主である人間の魂尽き果てるまで生み続け、平均10体ほど生む。
しかもそのジェノムは、自らの意志が希薄な、魂の宿っていないジェノムなのである。
これらを何万体と束ねて統率する事が出来るのであれば、シェルノトロンサーバーとして成り立つ。それが天文の見解であった。

天文は、このamRNAウイルスの研究を進めることが出来る人物を探した。そしてジルという存在に行き当たった。
天文は、地文高官になりすましたエージェントをジルに向かわせ、資金難であることをいい事に、多額の謝礼とフォーシーズンへの居住権と引き替えに研究させた。
そしてamRNAウイルスはどんどん進化していく。更に天文は、そのamRNAウイルスで生まれたジェノム達を束ねる存在、女王ジェノムを創り出すウイルスも創らせた。
ジルはその申し出に対して、shsヘテロマイシンを開発した。

双方ともプロトタイプまで完成する頃には既に、試練の3年間が始まりつつあった。
ジルのお陰で、一人の人間の犠牲で50体ほどのジェノムが生み出され、更にそのジェノムはダウンサイジング遺伝子操作によって小さな身体として創られ、
更に効率化のために、妄想に左右されない、一律の身体となるように設計されていく。
こうして出来たのが、あの『シャール』の原型である。

だが、人が犠牲になる時点でまだ永久機関にはなり得ない。天文は更にジルに研究を進めるよう要請する。
しかしジルは、だいぶ立場が良くなった為(自分以外にこの研究は出来ないと確信した為)、交渉しにくくなっていた。
そんな時、ジェノミライ研究所でレオンを奪おうとするジル達をPLASMAが拘束するという事態が発生。
天文はジルを拘束し、そのままソレイルに連れてきて、ある程度の自由と引き替えに研究の継続をさせることにした。
目指すは、人が死なずにシャールが無限増殖する永久機関の創成である。

ネイとジェノミライ・プロジェクトⅡの浅からぬ関係

ネイは言わずと知れた、本物のイオナサル・ククルル・プリシェールである。
結城寧であるイオンがアースから連れてこられたときに、身体から魂を抜き取られて廃棄させられる運命に遭った悲しい少女。
抜き取られていた魂は一時的にシェルノトロンに押し込められていたが、親友だったフラクテルによって盗み出され、
当時天文が秘密裏に開発中だった人工ジェノムである「シャール」に転送される。
すなわち、今のネイの身体は、その人工的に作られたジェノムシャール」の身体なのである。

だが人工ジェノムは人間と同調しないと生きていけない為、フラクテルと同調してエネルギーをもらうことになった。
そして同調時に、フラクテルが持つ天文の機密情報の全てを精神世界経由でネイは授かることになる。
これはネイが自分の身体を取り戻すのに必要な情報として、フラクテルが意図的に共有したものである。
だが、フラクテルは反逆がバレて殺され、ネイは一人、これを行った施設である「ソレイル」を脱出することになった。

脱出には成功したものの、身体はシャールそのもの。ネイは数日でエネルギーが尽きかけ、瀕死の状態になってしまう。
そしてその時、ジルに見つかり拉致される事になるのである。
ジルは、ネイの身体である人工ジェノムシャール」を増産する計画の中核を担うウイルス「amRNAウイルス」の生みの親であり、ネイの身体の神とも言える存在だった。
ジルは、シャールからエネルギーをもらい普通に生きられるウイルスである「shsヘテロマイシン」をネイに投与し、ネイは一命をとりとめた。

ジルは助けるのと交換条件として、自分の傍にいて研究を手伝うように命令した。その1つが、イオンを連れてくるように命じたことである。
ネイにとっても、イオンは恨みの対象であり、自分の身体を取り戻すために必要な存在である。
ジルとネイは表面上目的が一致したので、取引することにした。そしてネイはイオンにすり寄り、誘導する事になったのである。

尚、イオンのことを恨んでいるのにイオンを大切に扱うのは、それが自分の身体だからだ。
ネイは、イオンを「ソレイル」に連れて行き、そこで自分の魂とひっくり返すのが目的。だから、身体に傷つけることは絶対にしない。
また、イオンに対し、皇帝になるのを全力で支援しているのは、身体を取り戻した後、少しでも自分(イオン皇女)が有利な立場になるように、イオンに頑張らせる為である。
だから、少々度を超してヒステリックになるときもあるが、それは未来の自分の悲惨な状況を心配してのことである。

ジルとジェノミライ・プロジェクトⅡの繋がり

天文はジルを拘束して、なんとソレイルに護送した。そしてそこで顔合わせをしたのが、天文総統リーベルトだったのである。
地文幹部と偽ってジルにamRNAなどを発注していたのは、なんと天文だったのだ。これでジルの中で全てのピースが繋がった。

ジルは6次元を移動した(崩壊編最終幕)記憶が残っている。一度は取り戻したウンドゥ、それを元に戻されたこと。
そして、インターディメンドのこと。

ネロは向こうの世界に一瞬戻されたとき、向こうの世界では死人になっていた。それをイオンは連れもどした。結果、ネロは死人同然の冷凍睡眠に戻った。
ネロにとってどっちが幸せだったのか。それ以上に、ウンドゥをまた奪われたことは、イオンに対する大きな恨みとなった。
インターディメンドは、ネロの利益の為にミラクルな力を発揮する。しかしそれは、ジルにとってもウンドゥを取り戻す為に役立つ筈である。
今、自分と同じ場所にアルノサージュ管がある。
ジルは考えるまもなく、リーベルトと握手した。ジルはウンドゥの為に、天文に自分を売ったのである。

備考

アストロサイト・モジュラトリ・ウイルス

AMVは、ネロのSHWと提供ボディが上手くかみ合わなかったために、体内で正常な組織として創り出され続けていたもので、
いわばマクロファージとかみたいなものをSHWが創らせようとしたら、この世界のボディはウイルスを生み出した、みたいな感じ。

だから、イオンが連れてこられたときも、そのようなウイルスが発生していないかしばらく監視するために、イオンは監禁されていた。


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Last-modified: 2015-04-20 (月) 22:07:26 (853d)