『ジェノム』ラシェーラで詩を謳う方法 †
ラシェーラ人は、ある種の生命と意識を通わす事が出来る。
その「生命」とは、あらゆる動物(例えば蝶や鳥、犬など)の中に存在する突然変異体ともいうべき存在で、通常の生命と違い3重螺旋以上の遺伝子DNAを持つのである。
ラシェーラ人はその突然変異体を「ジェノム」と呼んだ。
それらは、通常の2重螺旋遺伝子体には絶対に真似のできない「同調」「完全同調」「一心同体」という3つの特殊能力を持つ。
「同調」は、言葉を使わない意志疎通、
「完全同調」は、意識を同調させる事で肉体をも同調させる、すなわち合体する事、
「一心同体」はその名の通り、切り離す事の出来ない1つの存在になる事である。
実はジェノムとはすなわち「ゲノム」、遺伝子に由来する。
その名の通り、パートナーとラシェーラ人は、合体する事で遺伝子が結合し、完全な一体化をし別種の生命になるのである。
人間は2重螺旋、ジェノムは最低限3重螺旋を持つから、「完全同調」以上の状態では最小でも5重螺旋になる。
人間は最大12本分の遺伝子キャパを持っているが2本しか使っていない。
12個のメモリソケットに2枚しか刺さっていないようなものである。
ジェノムと合体(完全同調、一心同体)をすることにより、その空きスロットに遺伝子が追加される。
それによって、様々な超常力を行使する事が出来るようになる。
一般的に、螺旋を構成する遺伝子の紐の数は、多いほど「超常的な力」を様々に使えるようになっていくという。
すなわちジェノムは、ラシェーラ人に超常的な力をもたらし新人類とする事が出来る存在なのである。
それ故ラシェーラの歴史は「ジェノム」抜きには語る事が出来ない。
コミュニティの形成、国家間戦争、階級、文明の進歩、そして帝国の形成に至るまで、そこにはまんべんなくジェノムが関わっているのである。
「完全同調」と「一心同体」の違い †
同調はテレパシーのようなものだと思えば分かりやすいが、完全同調と一心同体の違いはもしかしたら分かりにくいかもしれない。
完全同調とは、ジェノムとラシェーラ人とのH波波動が完全にシンクロした状態、一心同体とは、そもそもシンクロ以前に1つしかない状態である。
その違いをDNA的に見ると明確である。
完全同調の状態では、両者のDNAは螺旋としては絡み合い一体化しているように見えるが、それぞれのDNA螺旋は完全に、もしくは一部くっついていない(DNA鎖の間に塩基対が無い)。
一心同体とは、全てのDNA鎖が塩基対によって完全にくっついている状態である。
機能的な違いで言えば、その能力を引き出す時の欠損率が全く違う。
また、殆どのジェノムにおいて、一心同体でなければ行使できない特殊能力が存在する。
(本来この能力は、絶対に他の生命に明け渡す事が出来ない、最高セキュリティの能力であったと思われる)
尚、完全同調状態は、その時の絆の深さにも依るが、維持できるのはほんの一瞬である。長くて数時間と言ったところだろう。
そして一心同体になれば、更に維持は困難になる。歴史上の最高同体時間は1分未満である。
ここまでの説明をまとめたものが、以下の表になる。
状態 | 見た目の状態 | 状態の限界時間 | DNA鎖の状態 |
非同調(unsynchronize) | 分離。テル族と護の関係 | 無限 | 絡んでいるが塩基対は繋がっていない |
同調(synchronize) | 分離。テル族と護の関係 | 数日程度 | 絡んでいるが塩基対は繋がっていない |
完全同調(demi-genomize) | 人間はフォログラフ的に姿が変わる。ジェノムも姿が変わる | 数時間程度 | 絡んでいるが塩基対は繋がっていない |
一心同体(evangenomize) | 物理体として姿が変わる。ジェノムと人間は一心同体 | 数秒程度 | 絡んでいて塩基対も繋がっている |
ジェノム図解
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螺旋数の多さについての良くある誤解 †
まず重要な事は、ジェノムと合体してDNA螺旋が増える事は、
「より想い(DHW)を身体(SDW)に欠損無く伝えられ、それがそのまま物理現象(DDW)になりやすくなる」事であり、
決して魂(SHW)のレベルアップでもなければ、魂の変化でもないという事である。
これは「DNA螺旋が多い人ほど尊敬できる人」ではないことを意味する。
それはあくまで「自動車」か「装甲車」か「戦車」かの違いでしかなく、
操縦者次第では戦車も自動車に負けるし、戦車の乗員が自動車の乗員よりデキた人というわけでもない。
ジェノムと呼ばれる生命は、それ固有の形状を持っていない。
強いて言えば「犬型のジェノム」「ネコ型のジェノム」「鳥形のジェノム」などである。
これらは通常の動物とは「突然変異である」という違いしかないが、その「突然変異である」の中には様々な違いがある。
まず、ジェノムは通常の動物とは違う「本能」を持っている。
動物の本能と言えば「生存本能」そして「種を残していく生殖本能」などがあるが、ジェノムのそれは一般動物とは異なる。
まず、ジェノムは通常動物と交わって子孫を残す事はない。だから、同じ姿をした2重螺旋の動物に対して興味を示したりしない。
ジェノムはジェノム同士で交わり、種を残すのだが、この件については後述する。
また、ジェノムは同調後は同調した人間の生命エネルギーを食って生きていくので、何も食べなくても大丈夫になる。
(同調していないジェノムは普通に食べないと生きていけない。更に空想生物は食べるという知識すらないので、長く一人でいると確実に餓死する)
逆に、ジェノムだけが持つ本能がある。それが「同調本能」である。この同調本能は、生殖本能に繋がる重要な本能である。
これについても後で述べるが、まずは同調とは何なのか、そしてどのように行われるのかを先に説明していこう。
ジェノムとの同調は「詩」によって行われる。
人間は同調したいと思うジェノムの前で詩を謳い、ジェノムに対しいわゆる「求愛」をする。
合格であれば、ジェノムはその人間と「挨拶の為の完全同調(ファーストハーモニクス)」をする。
ではその「合格」の基準は何なのか。それは「発声帯域」である。
その要求する帯域はジェノムにより違い、故に結果として人間との相性が生じる。
ジェノムはまず、自らが要求する発声帯域が網羅出来る相手でなければ見向きもしない。
人間は皆発声帯域が違うから、パートナーとなるジェノムは人によって変わってくる。
だが当然、発声帯域が広ければ広いほど、様々なジェノムと意志疎通が可能になる。
故に、ラシェーラでは太古より「発声帯域が広い人ほど優秀」と崇められ、産まれ持つ身分制度として確立している。
ジェノムが人間をえり好みする理由 †
ジェノムが、要求する発声帯域以上の声の持ち主しか選ばないのには理由がある。
それは、ジェノムは自らが外に対して何か行動を起こすとき、かならず「詩」によって成され、更に“自ら単独では詩を謳えない”為である。
(補足:そのジェノムの物理形態としての動物の鳴き声は、当然出力可能。詩を謳えないだけだ)
要するに、人間の身体を借りる事で初めて詩を謳え、外部に対して何らかの力を行使する事が出来るのである。
すなわちジェノムと人間の関係は、悪く言えば寄生虫と宿主の関係と言っても過言ではない。
ジェノムの「想い」や「記憶」「回想」などは全て、詩である。
これがどのような感覚なのかは、ジェノムにならないとわからない。
その詩にはとてつもない力が秘められているが、人間の身体を借りなければ声にして出す事は出来ない。
そしてジェノムの作曲には癖がある。それ故に、必要な音階はジェノムによって違う。
そんな理由により、自分が出せる全ての声を人間が出せなければ力を発揮できないのだ。
ジェノムはラシェーラ人の精神世界に宿り棲み着くわけだが、具体的にはどこに棲み着くのか。
それは、「使われていない螺旋が担当する精神世界の一部もしくは全部」である。
人間のDNA螺旋は2鎖であるが、全部で12鎖までの拡張性がある。
現在、「人間の脳は1~2割程度しか働いていない」と言われているが、それは担当するDNA鎖が眠っている為である。
その「空き室」をジェノムに賃貸する。何部屋貸すかは、ジェノムの持つDNA鎖数次第だ。
そして、その「眠っているリソース」を使って、ジェノムは詩魔法を発動したりする。
また、同じ精神世界に同居する事になるので、同調したり完全同調したりが可能になる。
アパートで例えるなら、以下のようになる。
非同調 | 101号室と102号室は断絶された状態(普通の1Rマンション) |
同調 | 101号室と102号室は、窓によってお互いが見えるようになっている(会話が出来る) |
完全同調 | 101号室と102号室は繋がっていて、自由に出入りできる |
一心同体 | 101号室と102号室は、入口は分かれているが、中に入れば同じ部屋である |
人間にとっては、眠っていた(使えなかった)リソースを活性化して使って貰う事で、自分の能力アップに繋がる。
人間にとってジェノムは、脳の活性化ブースターユニット(何UかはDNA鎖数による)なのだ。
ジェノムと人間のトレードオフ †
ジェノムと人間の同調は、半分は絆によるものであるが、もう半分はいわゆる「取引」である。
既に述べたとおり、ジェノムは己が力を発揮する為には別の生命体と合体しないといけない。
ジェノムにとって「詩を物理的に(声に出して)謳う」ことは、呼吸する事や食事をする事と同じくらい重要な事だ。
なぜなら、ジェノムは世代交代(種の存続)も、詩によって行う為である。
すなわちジェノムは、それ単体では種の存続すらままならない。
蛇足になるが、ジェノムは昆虫から動物まで様々な形をしているが、同種の一般動物と交尾をしたりはしない。
ジェノムにとって彼らは、形は似ていても全然別の生き物。
例えは悪いが、人間が精巧なラブドールと結婚しようとしたり子供を産ませようとしないのと同じくらいの事である。
(実はラシェーラ惑星史における動物という存在は、ジェノムのドールであると言っても過言ではない。ここでは詳細説明は割愛)
ジェノムの繁殖には当然、ジェノム同士の関係構築が必要になる。
いくらジェノムが人々より超越した力を持つとは言え、ジェノム同士の交流はやはり「詩」である。
外部生命(別のジェノム)と意志疎通する為には「声で謳う」事が必要不可欠であり、故に人間と同調しなければならない。
ジェノム同士が引き合うのも、やはり詩によってである。
だから、相手のジェノムを好きになる要因は詩である。実際にはその詩に秘められた想いを聴く。
故に、ジェノムにとって「同調」は生命として必要不可欠な行動であり、他の動物より発声帯域の広い人間を求めるのもわかる。
また同調する相手をえり好みするのも、自分の力を100%発揮する為のみならずジェノム同士の求愛にも多大な影響を与える為である。
更にジェノムは、人間の「想い」を消費する事で力を発揮する。
簡単に言えば、人間の生体エネルギーを喰っているのである。
もっと具体的にわかりやすく言うと、謳うという行為は人間の体力(SD波)を使っている。
その延長線上で、その詩によって何かを爆発させたりする場合、そのエネルギーはやはり人間の生体エネルギー(SH波)を消費している。
では人間側にとってのメリットは何か。
言わずとしれた「ジェノムの持つ強大な詩の力を行使できる」事である。
ジェノムの詩は、様々なエネルギーを励起させる。そして複雑な詩になればなるほど、その力は具体的な奇跡を起こす。
人間はジェノムに人生の宿を与える代わりに、その力を自由に使わせてもらうという宿代を貰うのだ。
ジェノムと人間は通常、会話は出来ない。
が、同調した相手とは「同調中に限り」自由に想いを交換出来る。
そしてこの「同調中の想いの交換」が絆を強め、絆が強くなればなるほど強力な詩魔法が発動できるようになる。
その理由は、絆が深まるほど宿主である人間の「こうしたい」という想いを、欠損無くくみ取れるようになる為である。
またジェノム自身も、その人間の為に力を行使する事を頑張ろうとする。思いが強まるのである。
そしてもう1つ、決定的な事がある。絆が強くないと、長時間の同調は無理なのである。
同調は、少しでも相手を拒絶したら解除されてしまう。
例えば、ジェノムが不意に人間が入って欲しくないと思っている心の領域に入り込もうとし、「あ!そこはちょっとダメ…」と思った瞬間に切断される。
だからジェノムと人間の関係は、ファーストハーモニクスが終わりではなく、むしろ始まりなのだ。
同調するようになってからツーカーの仲になり、人間が有る程度思い通りの力を行使できるようになるには10年近くを要する。
完全同調後の身体的変化 †
完全同調時に変化があるのは精神世界だけではない。肉体にも大きな変化が現れる。
完全同調時には、ジェノムが持つ物理的な身体特徴が人間に反映されるのである。
すなわち、ジェノムが蝶であれば、完全同調すると蝶の羽根を持つ人間になり、
オオカミであればワーウルフのような強化人間になる。
そしてこの完全同調後の身体的多様性も、ラシェーラでは重要な美意識になっている。
たくましい、可憐な、かわいらしい、カッコイイ…完全同調後の身体は、ラシェーラ人自身のアイデンティティにもなるのだ。
ジェノムの繁殖と宿主との関係 †
ジェノムはラシェーラ人にとっての寄生虫であるという例えを話したが、それでは具体的にジェノムはどのように利益を得ているのか。
ジェノムにとって合体による利益は「自らの意志を周囲に拡散できる(=詩を謳う)」ことと「種の繁栄」である。
さて、ジェノムが「詩を謳う」事には、もう1つの利益「種の繁栄」に繋がる大きな意味がある。
それは「詩を謳うことで、別のジェノム個体とリンケージする(互いを認識する)」為である。
ジェノム同士の交流はU波とH波(両方とも大義で見れば精神波。テレパシーと考えて良い)によって行うが、それは「既に知っている個体」との交流である。
すなわち、最初に自分以外のジェノムを認識するのには「詩」が必要なのだ。
ジェノムがラシェーラ人を介して詩を謳うと、その詩が聞こえる範囲内に存在するジェノムは、その詩の性質を記憶したりしなかったりする。
その性質を記憶したジェノム同士は、自らの宿主の精神世界内で(U波、H波的な)交流が可能となる。
さて、この「詩を聞いて記憶する」のは、ジェノム単体でも可能だが、「詩を謳う」のと「精神世界内での交流」は、宿主との同調が必要不可欠である。
なぜなら「詩を謳う」為には宿主の声帯が、そして「精神世界内での交流」には、宿主同士の精神世界が必要だからである。
ジェノムは、宿主の精神世界を自らの家(城と言っても過言ではない)として巣くい、集合的無意識の空間を経由して、
詩で知り合った他ジェノムのアドレス(別の人間の精神世界)へアクセスする。そうやって互いにコミュニケーションを図る。
そしてジェノム同士は意気投合すると、ジェノム同士の遺伝子をかけ合わせ「子供」を作るのだ。
すなわち、ジェノムは人間の精神世界で子供を作る。
だが、ジェノムに出来るのは「遺伝子をかけ合わせる」ことだけ。すなわち「スペック(性能)の構築」だけである。
そしてそれ以外の要素である物質的な要素、外観などは、自らではなく宿主の人間に「妄想させて作らせる」のである。
それは、宿主が精神世界において想像した何か(簡単に言えば、夢に出てくる動物など)をピックアップし、それを宿主の精神力(SH波)を用いて具現化する。
その子供は宿主の睡眠中にジェノムから生まれ(分離し)、そのままどこかへと旅立ってゆく。
(何らかの形で目を醒ますと、ジェノムが子供を産んでいる所を見られる。だが宿主はビックリする気力もない筈)
朝起きた宿主は、精神的にとても辛い状態(一時的な鬱状態)になっており、その日は「ジェノムの出産があった」と言って公然と仕事を休める。
尚、ジェノムは宿主の妄想によって子孫を作るので、必ずしも同じ形のジェノムにはならない。
もし、家の中にジェノムの子供(と言っても容姿はいきなり成人だが)がまだいたら、そっと放してあげるのが常識となっている。
もしくは、近所や知り合いにジェノムを探している人がいたら、試しに連れて行ってあげてもいい。
ジェノム同士の交流が宿主にもたらす恩恵「チェイン」 †
上記の通り、ジェノム同士の交流は種族繁栄には欠かせないものである。
だが、それはジェノム側の都合であり、自分の精神世界の共通意識野を介して他人と勝手にコンタクトを取ってるなんて、宿主からすれば気持ち悪い。
もしそれが人間にとって不利益でしかなかったら、ジェノムと人間はもっと殺伐とした関係だっただろう。
だが、このジェノム同士の交流もまた、宿主に恩恵を与えるものである。
それは、ジェノム同士が繋がった相手とは詩魔法の力を共有できる、というものである。
この恩恵を「チェイン」と言う。
簡単に言えば「合体魔法」が使える。もしくは、一人が他の複数人から力やクオリア(語弊はあるが五感と解釈してください)を間借りできる。
要するに、自分のキャパシティを越えた巨大な力が使えるのである。
とはいえ、もちろんいつでも勝手に使えるわけではない。相手の同意が必要であり、相手が自分と同じ想いを持っていてくれなければ力は欠損する。
逆に100人1000人と繋がっていて、それらの人達が謳い手と完全に同じ想いを持っていたら、もの凄い力を出すことが出来るのである。
さて、これを読めばジェノムと宿主との関係が、かなり真剣勝負であることがお分かり頂けると思う。
最初の方の説明では「ラシェーラ人がジェノムの力を利用して強大な力を発揮する」という良い部分だけにスポットを当てていたが、
実際は前項のように、ジェノムと宿主お互いの微妙な駆け引きで成り立っている。
宿主である人間にとって精神世界を犯されるのは実に不愉快きわまりない。
しかも、寝ている最中に繁殖する理由が「意識的に拒絶されないから」という理由であるから、宿主側からすれば更に不愉快きわまりない。
これはもう、ジェノムと宿主との「精神世界戦争」とも言うべき状況である。
特に初期の不安定な時期は、絆より駆け引きの要素が大きい。それ故にラシェーラ人もジェノムも常に緊迫した状況にある。
お互い、少しでも油断すれば自らが支配されかねないという危うい状態なのだ。
とはいえ表面上は比較的穏やかであり、例えるならば日米関係のような状態と言える。
ジェノムは極希に、宿主の精神世界を占領し、乗っ取ってしまう。
ジェノムに夢セカイを乗っ取られると、宿主は廃人になって一生目を醒まさなくなる。
だが安心して良い(?)。ジェノムが覚醒して身体を操っているから、端から見れば今まで通り、普通に生きているようにしか見えないのだ。
だが、これを放っておくと大変な事になる。
1.大量にジェノムが生産される
2.宿主をジェノムが操って、バカな事をし始める(銀行強盗とか)
3.集合意識U波を通じて周りのジェノムが同じ事をし始める
1は、常に脳を自由に出来る訳なので、子作りし放題ということである。ジェノムが大量に発生する。
2は社会問題として最も重大な問題である。これと3を抑制する為に、帝国政府はジェノムの管理の徹底を帝国民に義務づけている。
とはいえ、ジェノムがいつ如何なる時も、宿主の精神世界を虎視眈々と狙っているわけではない。
それにはちゃんと正当な理由がある。
ジェノムが宿主を乗っ取ろうと思うには、主に以下の理由が介在する。
1.コイツ生き物としてダメだと思ったとき
2.ジェノムが(価値観の違いなどから)宿主を認められなくなったとき
3.宿主との対話の結果、思想を持ったとき
4.宿主が特にお願いしたとき
ジェノムは大変頭が良い。
だが、ジェノムは(人間もそうだが)初期状態ではピュアであり、暗黒面を持ち合わせていないのである。
故に、もしジェノムが支配思考を持つような事があれば、それは宿主の責任ということだ。
ジェノムとの交流について必要最低限の教育は、帝国学校初等教育において、徹底的に教え込まれる。
尚、ジェノムが宿主を支配しても、基本、宿主の肉体的スペックを越えることは不可能。
原理的には、宿主をリモートコントロールする事になるので、ジェノム自身が直接身体を着て歩けるようになるわけではないのだ。
要するに、できる事は「完璧な指示出し」であり、それを遂行可能かどうかはその宿主にかかっているのである。
無茶な注文をすれば、100%従順な宿主は全力で頑張り、そしてそれによって簡単に殺すことが出来る。
(例えば幅10mの崖をジャンプして越えろ、と言えば、宿主は全力で頑張る。無理と分かっていても分かっていないので)
ジェノムは、声帯が潰れてしまった宿主からは逃げる。
これは本能的なものであり、絆の深さによって逃げなかったりするような甘いものではない。
相当強い絆が築かれていても、声帯が潰れた宿主に一生付き添う事は殆ど無い。
この本能に逆らうのは相当大変である。
とは言っても、炎症などで一時的に声帯が潰れているだけの時には逃げたりしない。
ジェノムは本能的に、それが一時的なものか永続するものかを認知できる為だ。
尚、皇帝即位の為の3年間の儀式前に声帯が潰れる際、ジェノムはそれを永久的なものとして認識する。
実際それは正しい判断であり、なぜなら次に声が再生するとき、その声帯は別の声帯だからである。
すなわち、それまでの声帯は永遠に復活しない。故にジェノムはまず間違いなく逃げるのである。
この偶然が、3年間の試練をより一層厳しいものにしている。
(番外編)ジェノムに関する都市伝説?? †
ジェノムの中には平均的でないヤツもいる。
そんな、ちょっと都市伝説臭いジェノムの話をしよう。
1.同調後の遺伝子は4本が最強説 †
通常、ラシェーラ人の遺伝子は2重螺旋であり、ジェノムも3重~8重螺旋である。
すなわち、どんなに弱いジェノムであっても、同調後の遺伝子は5重螺旋が最小である。
生命の遺伝子は最大で12重螺旋であり、一般的にはこの12重螺旋が最強であると言われている。
だが、実はトランプのエースのように、12重螺旋より4重螺旋の方が強いという学説がある。
だがそもそもジェノムとは、3重螺旋以上だからこそ超常的な力「同調」を行使できるわけだから、4重螺旋は通常では不可能だ。
これと同じ仮説で、更に「3重螺旋が最も強い」という仮説を唱える学者もいる。
(注:第6紀末に登場した「シェルノトロン」は、この「4重螺旋合体」を可能にしてしまった。詳しくは「シェルノトロン」の項目を参照)
2.超音域を要求するジェノム †
ジェノムが人間との同調を好むのは、発声帯域が広いからである。
人によっては6オクターブの発声帯域持っている人もいる。
だが、そういった「神に与えられた声帯」を持ってしても同調できないジェノムは、世の中に五万といるという。
人間が詩で同調できるのはせいぜい6オクターブまでだが、逆に全てのジェノムが6オクターブまでしか要求しないわけがない。
実際問題として32オクターブの帯域を要求するジェノムもいるのだ。
こういったジェノムは人間とは絶対に同調できず(同調せず)、人間の目から見れば種の存続が不可能とすら思える。
だが、実際にこういったジェノムが存在するのは実証されており、通常は人間以外の何らかと同調していると言われている。
実証されている理由は、ラシェーラ人の中でもたった一人だけ、この32オクターブのジェノムを扱える人がいるからである。
それは歴代の「皇帝」である。この件についての詳細は、「02_歴史」の「皇帝」の項目を参照されたい。
ジェノムは、姿形は多種多様な生命である。蝶もいれば龍もいるし犬もいる。
となれば、当然人間もいる。
そもそも宿主側に人間が選ばれやすいのは、発声帯域と脳の発達において他の動物の追随を許さないからでしかなく、人間とて動物。
ジェノムからすれば、人間でなくても「条件を満たす2重螺旋生命」であればOKなのだ。
そして、ジェノムが「全ての動物の形状をとる」可能性が有るなら、人間の形状をとる事もある。
人間型のジェノムであっても当然、人間と同調し、人間と1つになる。
人間型ジェノムと人間との同調は、大変強い力を出せる場合が多い。
更に、同調中に身体が変調しても容姿が変わらない為、隠密状態で強力な詩魔法を使えるというチートにも近い能力を有するようになる。
もちろん、女性が男性形ジェノムと同調すれば中性的な容姿にはなるが、逆にそれが身元不詳性を向上させ、更に隠密に適したものになるのである。
故に、金持ちが大金で人間型ジェノムを闇取引する事も多く、これは第6紀末期においては人権問題として盛んに議論された。
だが最も究極な形は、「人型ジェノム本人の声帯が、自身の要求帯域をクリアできる発声帯域を持っている場合」である。
この極希な状況の場合、誰かと同調する必要すらなく、セルフで力を発動できる。
だがこの究極な形は殆どの場合において歓迎されない。
なぜなら殆どの場合「歯止めが聴かなくなる」為である。
ジェノムと人間の関係は、お互いのトレードオフによる力の抑制である。
単独ジェノムはそれが無い為、自らの力を奢りクーデターなどを起こし、不幸な末路になる事が多い。
4.「一心同体」の上をゆく、「唯我」という融合がある †
ジェノムとの関係は一心同体がMAXと言われているが、その更に上が有るという。
それは、一心同体が永続的に続く状態「唯我」である。
これはもはや、元から1つの生命であったかのように、自然な形で永遠の同化をするものである。
例えば人間は2本鎖だが、1本鎖の生命2体に分けようと思っても分ける事は出来ないだろう。それと同じくらいの一体化なのである。
これはすなわち、永遠に特殊能力を使いこなす事が出来る存在であり、既に人間ではない。
明らかに神なる存在なのである。